あなた(生産者・流通・消費者)の思いをカタチ(産品)にして大分県産農林水産物のブランド化に取り組んでいます。
周囲はシーンと寝静まり、夜も更ける頃。体調の悪そうな牛がいないかチェックをするために、梶原美行さんは牛舎へ向かい、飼育している牛を見回ります。彼は、31年間勤めたJAを退職し、肉用牛の経営を始めて10年。牛の体調管理は、生育にかかわる最も気にかかるところだと言います。特に、突然死する可能性のある子牛の状態には敏感。子牛の健やかな成長と、また出産を控えた牝牛のためにも、ストレスのない生育環境づくりに勤めています。
たとえば、牛を牛舎の中に閉じ込めておくのではなく、自由に散策させるのもストレスを軽減する方法のひとつ。梶原さんの経営する「グリーンストック八幡」の牛舎の裏は、傾斜のなだらかな山に続いていて、牛が歩き回れるようになっています。しかも、山肌に生えた雑草を牛が食べるので、これは里山の保全にもつながっている素晴らしい仕組みです。
「グリーンストック八幡」ではほかにも、高齢化にともない農作業をする人手が不足している玖珠町において〈コントラクター事業〉という画期的な取り組みを行っています。コントラクター事業とは、稲刈りなどの農作業を請負い、その代わりに稲藁など粗飼料を提供してもらったり、また堆肥を農家に提供したりといういわゆる「物々交換」のような仕組みのこと。この経営手法が評価され、同社は2007年、みごと全国優良畜産経営管理技術発表会で優秀賞に輝きました。
梶原さんは、こうして地域の発展にも貢献しながら、豊後牛の〈繁殖〉生産者として94頭の牛を管理しています。分娩間隔は平均して12か月。生まれて10か月ほど経つと、〈肥育〉生産者に引き取られていきます。
きめ細かな霜降り肉
数々の伝説が残る童話の里
大自然をバックに豊後牛を味わえる
繁殖生産者から子牛を買うのが、尾道一太さんら〈肥育〉生産者。それから19〜20か月まで育てたら、「豊後牛」として市場に出されるのです。……と、市場に出るまでに様々な人の手に委ねられている豊後牛。途中で偽装が起こらないことは大前提となります。そこで、生産者は生まれた牛すべてに10桁の〈個体識別番号〉を付し、種となる親、生まれた場所、育てられた場所がわかる「トレーサビリティ」をしっかりと守っています。それは、BSE問題でかなりの痛手を経験した生産者たちにとって、消費者に預ける信頼であり、生産者間の信頼の証でもあるのです。
「BSE問題が起こった年、ある日突然に牛が売れない時代がやってきた。死ぬことさえ考えた。でも、絶対にまたいい時代がやってくることを信じ、私は立派な豊後牛を育てることで攻め続けたんです」
尾道さんは、肉が売れない時にも出生の確かな子牛を購入し続け、配合を研究した飼料を与えながら立派に牛を育てあげたのです。やがてトレーサビリティが導入され、時代は「上質で安全な」牛肉を求める時代に。尾道さんの育てた豊後牛は、今は遠く北海道からも買い手が着くようになっています。また、自身で「ベコ屋」という豊後牛肉専門店も持ち、生産者が経営する肉屋ということで全国からの注文を受けています。
豊後牛の生産者たちは、「上質で安全な」牛肉を育てる人たち。しかし、彼らはそれだけの人ではありません。未来を見据えながら、地域を育みながら。豊後牛を育む大分の農村、それから豊後牛というブランド価値を高めていくことも視野に入れた、志高い人たちなのです。
生後4日目に、子牛に個体認証番号の記された耳漂をつける
出産を控えた牝牛。人が手を貸さず、自然分娩にまかせる
玖珠町内の農家の稲刈りを受託し入手した藁をサイロに
牛舎裏に広がる山は牛の恰好の遊び場。山肌の雑草は牛が食べる
近くの山にある放牧地。ここで牛はストレスなく過ごせる
秋の祭で子どもたちがサイロに落書き!畜産に親しんでもらう手段